一般的に、氷は室温約20℃でゆっくりと溶けていきます。しかし、氷に塩を振りかけると、溶解が早くなります。
さらに、氷が溶ける際に生じる水の温度は通常0℃前後ですが、塩を加えるとこの温度がさらに下がる現象が確認されています。
この記事では、塩が氷に及ぼすこれらの効果と、その背後にある科学的な原理について解説します。
塩を氷に加えるとなぜ溶けやすくなるのか
通常、冷凍室で作られた氷は室温に置かれると徐々に溶けます。しかし、氷に塩を振りかけると、溶ける速度が速くなる現象が起こります。これは、塩が氷の融点を下げるためです。
氷が液体に変わる温度を融点と呼び、逆に液体が固体になる温度を凝固点と呼びます。純粋な水の場合、これらの温度は0℃です。
水に塩などの固体を溶かすと、その凝固点や融点は下がります。これを凝固点降下と言います。塩の濃度が高いほど、凝固点や融点の低下は大きくなります。例えば、氷と塩を質量比で3:1の割合で混ぜると、融点は約-21℃まで下がります。
結果として、氷の表面で塩が水に溶けると、その融点は純水の0℃よりも低くなり、氷はより早く溶けるようになります。
凝固点降下のメカニズム
凝固点降下の原理を理解するためには、純粋な氷と水の混在状態を考えると良いです。この状態では、0℃で氷が水に変わる分子の数と、水が氷に変わる分子の数が均衡しています。このため、融解速度と凝固速度は同じになります。
この均衡状態に塩を加えると、塩が含まれる液体の中で水分子の割合が減ります。その結果、液体から固体へ変化する水分子の数が減少します。塩は凝固しないため、液体側では塩の存在により凝固速度が遅くなり、融解が優勢になります。これにより、融解熱が発生し、周囲の温度が下がるのです。
融解速度は温度が高いほど大きくなり、逆に温度が下がると小さくなります。したがって、温度が下がると融解速度も低下し、再び凝固速度と融解速度が均衡する点に達します。この新しい均衡点が、凝固点降下の状態となります。
塩を加えた氷の温度低下の理由
氷に塩をかけると温度が下がる現象は、氷の融解過程と塩の溶解過程に関連しています。
溶解熱
塩が水に溶解する際には、溶解熱と呼ばれる熱が吸収されます。これは、塩の固体粒子が水に溶け込む際に、その過程で周囲の熱エネルギーを吸収することを意味します。塩の溶解はエネルギーを必要とするため、この過程で周囲から熱が奪われ、結果として温度が下がります。
融解熱
一方、氷が水に変化する融解過程も、熱エネルギーを吸収する過程です。氷が液体の水に変わる際には、この融解に必要な熱エネルギーが周囲から吸収されます。
これらの両過程によって、氷に塩を加えると、溶解熱と融解熱が周囲から熱を吸収し、氷と水の混合物の温度が低下することになります。つまり、氷が溶ける過程と塩が水に溶ける過程で必要とされる熱が、周囲の熱を吸収するため、温度が下がるのです。
塩を氷に加えると温度が下がる理由:溶解熱の効果
融雪剤(凍結防止剤)として使用
冬季に道路上の雪が積もると、滑りやすくなり交通事故のリスクが高まります。これを防ぐために、融雪剤として道路に塩が散布されることがあります。
塩は氷(雪)の融点を下げるため、積もった雪を効果的に溶かすのに役立ちます。塩以外にも、塩化カルシウム(CaCl2)などの化学物質も融雪剤として使用されます。これらの融雪剤は、降雪や低温時に道路の凍結を防ぎ、安全な交通環境を維持するのに重要な役割を果たしています。
まとめ